令和8年度から始まる「こども誰でも通園制度」
すごく良い方向性だなーと思いますが、『現場と制度設計のすり合わせがまだ全然足りない』という課題があるのではないでしょうか?
国会でも「通常保育も含めて、保育の質が下がらないよう万全を期すべき」という付帯決議が付けられています。

いちばん小さい当事者である「こども本人」にとっての課題は、
① 安心できる人・場所がコロコロ変わりやすい
② リズム(生活リズム・感情のリズム)が乱れやすい
③ 大人の都合が優先されやすく、“しんどさ”が見えにくい
ここから、もう少し具体的に考えてみると
① 人・場所が安定しないストレス
通う園が毎回ちがうかもしれない・・・・・
制度設計上、「空きのある園にその都度入る」形だと、
• 行く園がその日によって違う
• 担当の先生も毎回違う、お友だちも毎回違う
ということが起こり得ます。大人から見れば「いろんな園を体験できて良いじゃない」
と言う考えもあるかもしれませんが、
0〜2歳くらいの子にとってはいちいち“初めまして”の連続で、かなり負担が大きいです。
• 「この先生は自分のことをわかってくれている」という安心感が育ちにくい
• 環境に慣れる前に帰る・終わる、を繰り返してしまう
→ 幼い子ほど、「同じ先生・同じ場所・同じ流れ」がある方が、落ち着いて遊びに集中できるのではないでしょうか。
愛着形成の観点からの懸念
この年齢は(0歳~2歳)、
• 家庭の大人(親・祖父母など)との深い愛着形成
• そこから少しずつ、園の先生との**“第2の安心基地”**づくり
がとても大事な時期です。
短時間・スポット利用が重なると、
• 「ここは安心できる」と感じる前に終わる
• 泣いているうちにお迎え、が繰り返される
ことで、「外の世界=なんだかよく分からないけど不安な場所」というイメージになりませんか?
生活リズムと気持ちのリズムが崩れやすい
行ったり行かなかったりの不規則さや、月10時間前後という短時間利用だと
• 週に1回ふらっと行く
• 今週はいろいろあって行かない
• 来週は2回行く
といった「不規則さ」が起こりやすいです。
幼い子は、
• 食事のタイミング
• 昼寝の時間
• 遊ぶ→休むのリズム
が できるだけ一定 の方が、心も体も安定します。
不規則な通園だと
• その日だけ生活リズムが崩れる
• 行かない日と行く日で、子どもの気持ちの切り替えが難しい
→ 大人の都合(予定・リフレッシュ・仕事)に合わせる形になりやすく、
子どものペースが後回しになりやすいという課題があります。
行くたびに「初めての刺激」が強い(刺激そのものは悪くないと思うのですが)、
• 園に慣れていない
• 人も場所も毎回新しい
という状態だと、
「楽しい刺激」より前に「疲れる刺激」が勝ちやすくならないでしょうか?
• 家に帰ってからぐったりして機嫌が悪い
• 夜泣きが増える
• 翌日、行く前からぐずる
など、「サイン」として現れても、
大人は “経験させなきゃ” の善意で見落としてしまう ことがあります。
小さい声が拾われにくい(嫌だと言えない)
0〜2歳の子は、言葉で「今日はしんどいから行きたくない」、「この園は嫌だ」
とは言えません。
大人の「良かれ」とズレやすい
• 「お友だちと遊べて楽しいはず」
• 「社会性が身につくから行かせたい」
• 「預けた方がこの子のため」
という“善意のロジック”が先に立つと、
• 子どもの表情の曇り
• ささいなかんしゃく
• お腹をよく壊す・眠りが浅い
といったSOSのサインが、「たまたまかな」「成長の過程かな」で片づけられがちです。
「泣く=ダメな反応」になってしまう危険
幼い子にとっての正直な自己表現は「泣く• 嫌がる• 甘えて離れない」など。
でも大人が「せっかく予約したんだから」、「慣れさせないと」というモードでいると、
泣くこと自体を“悪い反応”と感じてしまうことがあります。
すると、子どもは 「泣いても無駄だ」「嫌と言っても変わらない」と学んでしまい、
感情を出さない方向に適応する危険があります。
集団生活の「楽しさ」と「しんどさ」の両方
良い点として、子ども側から見ると、うまく機能すれば
「同年代のお友だちから刺激を受ける」「家にはないおもちゃや遊具で遊べる」
「歌・手遊び・絵本など、保育のプロの活動を体験できる」
という、純粋に楽しい・伸びる側面もたくさんあります。
でも、慣れていない子には負荷が強い
ただ、「まだ母子分離に慣れていない」「家以外の場所に出る経験が少ない」
といった子にとっては、
• 大人数のざわざわ
• ルール(一斉に片付ける・座って聞くなど)
• 初めての活動(制作・行事)
が¨一気に押し寄せる“濃い時間”になります。ふだん長時間通っている園児は、
毎日の積み重ねの中で慣れていきますが、たまにしか来ない子は、
毎回「初めてのハードル」が高い状態が続きやすい
「家でゆっくり過ごす価値」が軽く扱われる懸念
制度ができると、「利用した方がいいのかな」「使わないと損かも」
という空気が生まれがちです。
でも、0〜2歳の発達にとっては、
「静かな環境で」「信頼できる大人と」「じっくり関わってもらいながら」
家でゆったり過ごす時間も、とても大きな価値があります。
制度が広まることで、「家にいるより園に行った方が“成長に良い”」というイメージが強くなりすぎると、
子どもの性格やその日の体調に合った選択より、「制度」「世間体」「なんとなくの常識」
が優先されてしまうリスクがあります。
note:幼い子から見たときのキーは「安定・ペース・サイン」
まだ幼いこどもの立場から見ると、こども誰でも通園制度の課題は、短く言うとこうです。
1. 人・場所・流れが“安定”しているか
2. 子どものペースに合わせた頻度・時間になっているか
3. 「しんどい」というサインを、大人がちゃんと受け止める余裕があるか
制度そのものが悪い/良い、ではなく、
「安心できる固定された園と先生」
「無理のない頻度」
「嫌がったときに休める選択肢」
この3つがセットで整っていないと、こどもにとっては“いい制度”にならない、というのがいちばん大きなポイントかなと思います。