現在の教育環境においては、学力や成果といった可視化しやすい要素が、評価の中心になりやすいように感じられます。一方で、数値では表しにくい力が、教育の中でどのように扱われているのかについては、十分に意識されているとは言えない場面もあるのではないでしょうか。
こうした問題意識から、「非認知能力」という概念について、改めて考えてみたいと思います。
非認知能力とは、学力テストや成績といった指標では直接測ることのできない力の総称です。たとえば、粘り強さや意欲、感情を整える力、自己肯定感、他者と協力する力などが挙げられます。これらは知識や技能のように点数で示すことが難しく、教育の成果としては見えにくいものです。しかし、人生を少し長い目で見たとき、こうした力が果たしている役割は、決して小さくないように思われます。
大切なのは、非認知能力が学力と対立するものではない、という点です。むしろ、学ぶ意欲を支え、困難に直面したときにも学び続ける姿勢を保つための土台として働いています。集中して取り組む力や、簡単にはあきらめない気持ち、失敗しても立て直そうとする姿勢がなければ、知識を積み重ねることも難しくなります。非認知能力は、学力の「代わり」ではなく、学びを支える前提に近い力だと考えられます。
非認知能力の特徴の一つは、「結果」よりも「過程」の中で育まれる力であるということです。思い通りにいかなかった経験や、失敗や遠回り、気持ちが揺れる時間。そうした経験の中で、人は自分の感情を知り、他者との関わり方を学び、次にどう行動するかを考えていきます。非認知能力は、こうした試行錯誤の積み重ねによって、少しずつ内側に蓄えられていくものです。
一方で、教育や子育ての現場では、効率や早い成果が求められることも少なくありません。日常の中で、「早くしなさい」「なんでできないの」といった言葉が、子どもに向けられている場面を見聞きすることがあります。多くの場合、それは忙しさや心配から出た言葉なのだと思います。それでも、その一言が、子どもにとっては「やってみよう」「もう一度挑戦してみよう」という気持ちを小さくしてしまうこともあります。非認知能力は、安心して試せる環境の中でこそ、育っていく力だからです。
また、非認知能力は「教え込む」ことができない力でもあります。指示や訓練によって短期間で身につくものではなく、日々の関わりや環境の中で、ゆっくりと形づくられていきます。そのため、数値で評価したり、他者と比較したりすることには、どうしてもなじみにくい性質を持っています。見えにくく、時間がかかるからこそ、後回しにされやすい面もあるのかもしれません。
それでも、社会に出てから人を支えているのは、こうした力であることが多いように感じます。困難に直面したときに立ち止まりながらも考え直す力、他者と関係を築きながら前に進む力、自分を過度に責めすぎずに立て直す力。これらは、人生のさまざまな場面で、静かに、しかし確かに働き続けます。
非認知能力に目を向けるということは、成果を急がせることを少し控え、成長の過程を信じて見守る姿勢を持つことでもあるのではないでしょうか。点数や結果だけでは捉えきれない力が、日々の中で育っていることを前提に、教育や社会のあり方を考えていくことが大切なのだと思います。
数値では測れない力には、不安が伴うこともあります。それでも、だからこそ、その存在を意識し、丁寧に位置づけていくことが求められているのではないでしょうか。非認知能力という概念は、教育の議論を少し広げ、こどもたちをより立体的に捉えるための、大切な手がかりの一つだと感じています。
