児童虐待相談件数の減少をどう読むか

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「初めての減少」を成果で終わらせないために

2024年度、全国の児童相談所が対応した児童虐待の相談件数は22万3691件(1月30日発表)となり、前年度比1818件減と、統計開始以来はじめて減少に転じた。もっとも、依然として22万件を超える水準であり、過去2番目に多い件数であることに変わりはない。

今回の減少をもって、状況が改善したと楽観視できる段階にはない。むしろ、これまで増加の一途をたどってきた相談件数が「なぜ今、減少に転じたのか」「この変化は何を示しているのか」を、政策的に検証すべき局面に入ったと捉える必要がある。

相談内容の約6割を占める心理的虐待は、配偶者間暴力の目撃など、家庭内の関係性や生活環境に深く根差した問題である。外傷などの可視的な兆候が乏しいため、発見が遅れやすく、支援介入のタイミングを逃しやすい特性を持つ。今後も件数の多寡だけでなく、内容別の質的分析が不可欠となる。

また、虐待行為者の多くが実父母であるという傾向は、個人責任論ではなく、養育者を取り巻く環境整備の重要性を示唆している。育児負担の集中、孤立、経済的不安、相談に至るまでの心理的・制度的ハードルなど、複合的要因への対応が求められる。

こども家庭庁は、こども家庭センターの設置進展により、早期支援が可能になったことが今回の減少につながっている可能性を指摘している。妊娠期から子育て期まで切れ目なく関与する体制は、重篤化防止の観点から評価されるべきであり、今後は自治体間での機能格差や人材配置の偏りが課題となるだろう。

一方で、相談件数は「発生件数」ではなく「把握件数」である。早期に支援につながったケースが増えた可能性がある一方、依然として制度に接続できない家庭や、声を上げられない子どもが存在することも前提に置かなければならない。

今後の政策課題は、件数減少を成果として固定化することではなく、①早期発見・予防機能の実効性検証、②心理的虐待への対応力強化、③現場負担を踏まえた人材・体制整備、④支援を「使える制度」にするための導線設計にある。

「初めて減少した」という事実を、通過点として次の改善につなげられるかどうか。自治体と国の役割分担を含め、いま改めて検証と議論が求められている。

児童虐待対策に関する施策評価の観点整理

① 相談件数減少の要因分析(量的評価)

  • 相談件数の減少が
    • 実際の虐待発生抑制によるものか
    • 早期支援による重篤化防止の結果か
    • 通報・相談行動の変化によるものか
      を切り分けて分析できているか
  • 児童相談所とこども家庭センターの役割分担が、重複や空白を生んでいないか
  • 地域別・年齢別・虐待類型別に減少傾向の偏りはないか

② 早期発見・予防機能の実効性

  • 妊娠期・出産直後・乳幼児期における支援介入が、継続的につながっているか
  • ハイリスク家庭を早期に把握できる情報連携(保健・福祉・医療・教育)は機能しているか
  • 「気づき」から「支援開始」までのリードタイムは短縮されているか

③ 心理的虐待への対応力

  • 心理的虐待を早期に把握するための評価指標・判断基準が現場で共有されているか
  • DV目撃等について、子ども本人への心理的ケアが十分に組み込まれているか
  • 外傷のないケースでも介入判断が遅れない体制となっているか

④ 支援につながりにくい層へのアプローチ

  • 制度を「利用できない」「利用しない」家庭へのアウトリーチが実施されているか
  • 相談や支援をためらわせる心理的・社会的ハードル(スティグマ)への配慮がなされているか
  • 外国籍世帯、単身世帯、経済的困難世帯などへの対応は十分か

⑤ 現場体制・人材の持続可能性

  • 児童相談所・こども家庭センターの人員配置は業務量に見合っているか
  • 経験年数・専門性の偏りによる対応力低下が生じていないか
  • 現場職員のメンタルヘルスや離職防止策は講じられているか

⑥ 連携・役割分担の明確化

  • 国・自治体・関係機関(教育・警察・医療)間の責任分界点は明確か
  • ケース移行時に情報断絶や支援の中断が生じていないか
  • 「誰が最後まで伴走するのか」が不明確になっていないか

⑦ 成果指標の再設計

  • 相談件数だけに依存しない評価指標(重篤化防止、再発率、支援継続率など)を設定しているか
  • 数値化しにくい「安心感」「支援の届きやすさ」をどう評価するか検討されているか
  • 成果を現場改善に還元する仕組みがあるか

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この記事を書いた人

市民お一人おひとりの暮らしに寄り添い、その声を受け止め、少子高齢化問題や危機管理に関する解決策を即座に提起すること。そして、市民の皆さまが「長岡京市に住んで良かった」と安心して暮らせる街、さらに皆さまも何らかの形でかかわっていける街づくりをすすめていくためにはどうしたらよいか。
これまで私たちを育て、地域を発展させてきてくださった方々、高齢者世代の方々、若い世代の方々、地域の将来を担う子どもたちが安心して生活できること、皆さまが地域での生きがいや友人を得て、笑顔でいきいきと生活していくためにはどうすればいいのかを、しっかりと考えてまいります。

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