数字の裏にある「見えない構造」
厚労省が公表した令和6年度の高齢者虐待の状況は、私たちに重い現実を示しています。
介護職員等による虐待は
・相談・通報件数:3,633件(過去最多)
・虐待判断件数:1,220件(過去最多)
家族等による虐待は
・相談・通報件数:41,814件(過去最多)
・虐待判断件数:17,133件(横ばい)
この数字を、私たちはどう受け止めればよいのでしょうか。
一見すると、「虐待が増えている」と感じます。
けれども、その背景には、もう少し複雑な事情があるように思えます。
① 「増えた」のではなく、「見えるようになった」
まず考えておきたいのは、
通報件数の増加が、そのまま虐待の増加を意味するとは限らない、という点です。
・通報しやすくなったこと
・制度が整ってきたこと
・社会の意識が高まってきたこと
こうした変化によって、これまで表に出にくかった問題が、少しずつ見えるようになってきた側面もあるでしょう。
それでもなお、
この数字が氷山の一角である可能性は否定できません。
② 家族介護の「限界」が数字に表れている
家族による虐待が多いという現実は、重く受け止める必要があります。
ただし、これは個人の問題というよりも、
社会の構造の問題と考えるべきではないでしょうか。
・長期化する介護
・経済的な負担
・周囲に頼れない孤立
・終わりの見えない日々
こうした状況の中で、
「何とか支えたい」という思いが、少しずつ疲れに変わっていく。
そしてあるとき、その限界を超えてしまう。
虐待は、突然起きるというよりも、
積み重なった負担の中で起きてしまう現象なのだと思います。
③ 介護現場の虐待は「個人」ではなく「環境」
介護職員による虐待も過去最多となりました。
ここで忘れてはいけないのは、
特定の誰かを責めるだけでは、この問題は解決しないということです。
・人手不足
・長時間労働
・十分とは言えない賃金
・強い感情労働の負担
こうした環境の中で働き続けると、
どうしても心の余裕が削られてしまいます。
その結果として、
言葉が強くなったり、対応が荒くなったりすることも起こり得ます。
つまりこれは、
個人の資質だけではなく、環境が生み出している問題でもあるのです。
④ 「防止」の前に必要なこと
虐待防止という言葉は、広く使われています。
しかし現場で本当に必要なのは、
単に「やってはいけない」と伝えることだけではありません。
・余裕のある人員体制
・安心して相談できる環境
・孤立を防ぐ仕組み
・心理的に安心できる職場
こうした土台があってこそ、
はじめて防止は現実のものになります。
⑤ 私たちはこの問題をどう見るべきか
高齢者虐待は、
特別な誰かだけの問題ではありません。
社会の中で、誰もが当事者になり得る問題です。
だからこそ大切なのは、
誰かを責めることよりも、
その背景にある状況を理解すること。
そして、
個人ではなく「構造」に目を向けることではないでしょうか。
■ 結び
今回の数字は、
問題が急に深刻になったというよりも、
これまで見えにくかった現実が、少しずつ表に出てきた結果とも言えそうです。
そう考えると、
問われているのは現場だけではありません。
この状況に対して、
どのような支援を整えるのか、
どこに人や予算を配分するのか。
それを決めていくのは政策であり、
その方向を問い続けるのが議会の役割です。
現場に「防止」を求めるだけでなく、
現場が限界を迎えない仕組みをどうつくるのか。
その視点がなければ、
同じ問題は形を変えて繰り返されてしまいます。
高齢者虐待の問題は、
決して現場だけの問題ではありません。
私たちの社会の選択、
そして議会のあり方そのものが、
静かに問われているのだと思います。