1.背景と目的
高齢者の増加とともに、病院への通院、日常の買い物、独居高齢者の見守りにおける「移動の確保」が大きな課題となっている。交通手段の確保と同時に、「移動しなくても済む工夫」「外出したくなる場づくり」を組み合わせて、生活の質と安全を高めることが目的である。
2.主な課題
1. 病院への通院
• 朝の混雑時間帯に予約が集中
• タクシー代が高く、継続通院が負担
• 独居で付き添いがいないケースが多い
2. 買い物の足
• 重い荷物(米・飲料・洗剤等)が負担
• 近隣商店の減少により、徒歩圏内で完結しにくい
• 独居ほど「まとめ買い」がしづらい
3. 独居高齢者の孤立と外出減少
• 外出機会の減少 → 体力低下・閉じこもり
• 相談相手や見守りが不足し、リスクの早期発見が難しい
3.具体的な対策の方向性
(1)病院への交通支援
デマンド交通・乗合タクシー
• 予約制で自宅近くまで送迎
• 主要病院・診療所・薬局を目的地に登録
• 「バスよりやや高く、タクシーより安い」料金設定
• 医療機関との連携
• 病院シャトルバス(駅・住宅地⇔病院)の運行
• 通院日を同じ曜日・時間帯にまとめ、乗合運行をしやすくする
• 通院付き添い支援
• ボランティア・NPOによる「付き添い+送迎」
• 介護保険サービス(通院等乗降介助)との連携
• 行政によるボランティア保険・交通費補助
(2)買い物支援
• 移動販売・巡回スーパー
• 週数回、住宅地・団地・集会所前などを巡回
• 行政は駐車場所の提供・広報・一部補助で支援
• 共同購入・買い物同行
• 町内会・サロン単位での共同購入(まとめて注文・配達)
• 学生・シルバー人材等による「買い物同行サービス」
• ネットスーパー活用支援
• スマホやタブレットでの注文を、支援者と一緒に実施
• 「買い物だけ覚える」実践的なデジタル講座の開催
(3)独居高齢者の移動+見守り
• 行き先付き送迎(居場所とのセット)
• サロン・体操教室・昼食会・高齢者カフェなどへの送迎
• 単なる移動ではなく、「行きたくなる用事」を用意
• 見守りと移動支援の一体化
• 民生委員・ケアマネ・地域包括・社協等が連携し、安否確認と通院・買い物支援を一本化
• 「最近外に出ていない人」を拾い上げ、サービスにつなぐ
• 小さなエリア単位の仕組み
• 〇〇丁目内だけで完結する有償ボランティア送迎(ご近所タクシー)
• 短距離移動用の小型電動バス
• 電動カートの導入検討
4.行政の役割(政策の方向)
1. デマンド交通・乗合タクシーの制度化
• 高齢者等を対象にした料金設定と利用登録制
• 電話・アプリ両対応の予約体制整備
2. 移動販売・巡回スーパー等への支援
• 事業者への補助・出店場所提供・広報支援
3. 「移動+居場所+見守り」の統合的推進
• サロン等への送迎補助、NPO・社協への委託
• 医療・介護・交通・商店街・住民組織の連携会議設置
4. デジタル活用の促進
• ネットスーパー、オンライン診療予約、配車アプリ等の活用支援
• 継続的な高齢者向けデジタル講座の実施

note:高齢者の交通のことを考えるとき、私はまず自分の親の姿を思い浮かべます。車を手放した途端、「少し遠くのスーパー」「気分転換のドライブ」「病院のはしご」が一気に難しくなり、行きたいところに行けないことが、こんなにも気持ちをしぼませるのかと感じました。
移動手段がないというのは、単に足がないというだけではなく、「自分で選べない」「人に頼み続ける申し訳なさ」「もう迷惑をかけたくないから、遠慮しておこう」という思いを生みます。その結果、外出が減り、人と会う機会も減り、「元気だからこそ家にこもってしまう」という、なんとも皮肉な状況が起こります。
だからこそ、移動の支援は、福祉や交通政策というだけでなく、「その人の尊厳をどう守るか」という視点で考えたいと思います。高齢者を“運ぶ対象”としてではなく、一人ひとりが「自分で行き先を選べる生活者」として、安心して移動できる仕組みを整えること。それは、いつか自分自身が歳を重ねたときに、「まだこの町で生きていける」と思えるかどうかにつながる、大事な投資ではないかと感じています。