人には、人から見えない荷物がある

― 見えにくい境界線の話 ―

人と人との関係には、外からは見えにくい境界線があります。

たとえば、介護される側と、介護する側。
子育て中のお母さん。
仕事を持っている人と、専業主婦の人。
子どものいる人と、いない人。
障がいのある子どもを育てている人。

それぞれの立場には、それぞれの事情があり、しんどさがあり、言葉にしにくい思いがあります。けれども私たちは、つい自分の見えている範囲だけで、相手のことをわかったような気になってしまうことがあります。

「いいわね、家にいられて」
「子どもがいないと自由でいいね」
「親の介護なんだから当然でしょう」
「お母さんなんだから頑張らないと」
「仕事をしている人は大変ね」
「専業主婦なら時間があるでしょう」

どれも、言った側に悪気はないのかもしれません。
励ましたつもり、ねぎらったつもり、何気なく言っただけだったのかもしれません。

けれど、その言葉を受け取った側には、胸の奥に小さな痛みとして残ることがあります。

介護する側には、終わりの見えない疲れがあります。
介護される側にも、申し訳なさや、自由を失っていくつらさがあります。

子育て中の人には、子どもを守る責任と、思い通りにならない日々があります。
一方で、子どもを持たない人にも、その人にしかわからない選択や事情、
触れられたくない思いがあるかもしれません。

仕事を持つ人には、仕事と家庭の間で揺れる負担があります。
専業主婦の人には、「家にいるのだからできて当然」と見られるしんどさがあります。

障がいのある子どもを育てている人には、日々の配慮や不安、周囲に説明し続けなければならない疲れがあります。
そして、その子ども自身にも、その家族にも、外からは簡単には見えない世界があります。

人には、人から見えない荷物があります。

その荷物は、本人がいつも言葉にできるとは限りません。
笑っているから平気とは限らない。
黙っているから納得しているとは限らない。
何も言わないから、傷ついていないとは限らない。

ハラスメントという言葉は、ときに強く聞こえます。
「そんなことまでハラスメントと言われたら、何も言えない」と感じる人もいるでしょう。

その気持ちも、わからなくはありません。

けれど私は、ハラスメントという言葉を、誰かを責めるためだけの言葉にはしたくありません。
むしろそれは、人と人とのあいだにある「見えにくい境界線」に気づくための言葉ではないかと思っています。

どこまでが親しさで、どこからが踏み込みすぎなのか。
どこまでが励ましで、どこからが押しつけなのか。
どこまでが何気ない会話で、どこからが相手を黙らせる言葉になるのか。

その境界線は、いつもはっきり線が引かれているわけではありません。
だからこそ、時々立ち止まって考える必要があるのだと思います。

そのひと言は、相手を少し軽くしているだろうか。
それとも、相手にまたひとつ荷物を背負わせているだろうか。

自分には見えていない事情が、相手にはあるかもしれない。
自分には何気ない言葉でも、相手には深く刺さることがあるかもしれない。

そう思えるだけで、言葉の選び方は少し変わります。
人との距離の取り方も、少し変わります。

大切なのは、完璧な言葉を探すことではありません。
相手の人生を、勝手にわかったことにしないこと。
相手のしんどさを、自分のものさしだけで測らないこと。
そして、見えない荷物を抱えているかもしれない人の前で、少しだけ想像力を働かせること。

人と人との関係は、いつも簡単ではありません。
近い関係であればあるほど、遠慮がなくなり、境界線が見えにくくなることもあります。

だからこそ、日常の中で何度でも問い直したいと思います。

そのひと言は、相手を尊重しているだろうか。
その場は、安心していられる場所になっているだろうか。
その沈黙の中に、言えなかった思いはなかっただろうか。

人には、人から見えない荷物がある。

そのことを忘れずにいるだけで、私たちの言葉は、もう少しやさしく、もう少し慎重で、もう少しあたたかいものになるのではないかと思います。

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この記事を書いた人

市民お一人おひとりの暮らしに寄り添い、その声を受け止め、少子高齢化問題や危機管理に関する解決策を即座に提起すること。そして、市民の皆さまが「長岡京市に住んで良かった」と安心して暮らせる街、さらに皆さまも何らかの形でかかわっていける街づくりをすすめていくためにはどうしたらよいか。
これまで私たちを育て、地域を発展させてきてくださった方々、高齢者世代の方々、若い世代の方々、地域の将来を担う子どもたちが安心して生活できること、皆さまが地域での生きがいや友人を得て、笑顔でいきいきと生活していくためにはどうすればいいのかを、しっかりと考えてまいります。

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